東京地方裁判所 昭和31年(ワ)5967号 判決 1963年6月03日
原告 大塩スエ
右訴訟代理人弁護士 大原信一
同 和田栄一
右訴訟復代理人弁護士 阪埜淳吉
同 小幡良三
被告 宮原モモヱ
右訴訟代理人弁護士 永田喜与志
主文
被告は、原告に対し、金二十四万千百六十円及びこれに対する昭和三十一年八月十八日以降完済まで年五分の金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告において、金八万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
理由
原告主張の一の(一)、(二)の各事実は、被告の認めるところである。
原告主張の一の(三)の事実についてしらべてみると、成立に争いのない甲第三号証の一≪中略≫を総合すれば、鈴木梅子は、昭和二十九年六月四日、被告、野村千代、高橋千代子、佐々木とく、野村きみに対し、金五万円を弁済期は、同年十二月三十日の定めで、貸し付けたことが認められ、右認定に反する証人野村千代の証言、被告宮原モモヱ本人尋問の結果は、前記各証拠に対比して、たやすく、信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
原告主張の一の(四)の事実についてしらべてみると、これに符合する証人伊藤こう≪中略≫の各証言、原告本人尋問の結果は、後記各証拠に対比して、たやすく、信用できず、前示甲第二号証、甲第三号証の一の記載部分は、原告本人尋問の結果によつても明らかなように、鈴木梅子が一方的に記入したものであつて、的確な証拠ということはできず、成立に争いのない甲第七号証をもつて、これを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて、右甲第七号証、被告宮原モモヱ本人尋問の結果を総合すれば、被告は、昭和二十九年五月十三日、鈴木梅子から、金五千円を借り受けたことがなく、ただ、被告は、かねてから、本件無尽講に加入していたが、その掛戻金がかさみ、一定の時期毎に所定の金員の支払をすることが困難であると予想されるに至つたので、同日、右講の業務一切を処理していた鈴木梅子に対し、右掛戻金五千円宛を分割して支払う旨を約定したにすぎないことが認められる。したがつて、原告の一の(四)の主張は、理由がない。
原告主張の一の(五)のうち、被告が鈴木梅子に対し、別表被告主張欄記載の債務を負担していたことは、被告の認めるところであり、右事実と前示甲第二号証≪中略≫を総合すれば、鈴木梅子は、昭和二十九年六月四日、被告との間に、これより先、鈴木梅子が被告に対して、別表原告主張欄記載のとおり、弁済期の定めなく、貸し付けていた合計金二十一万六千百六十円の債権を消費貸借の目的とし、弁済期は、同年十二月三十日と定めた準消費貸借契約を締結したことが認められ、右認定に反する被告宮原モモヱ本人尋問の結果は、前記各証拠に対比して、たやすく、信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
そこで、被告の一の抗弁についてしらべてみると、まず、被告は、本件無尽講が相互銀行法第四条に違反して、公序良俗に反する旨主張するので考えるのに、同法第三条第一項に規定する相互銀行業を営むとは、自らが主宰者となり、反復継続の意思をもつて、無尽を経営することと解されるが、この場合においては、主宰者は、その加入者と等しく、共同の目的に向つて立つものではなく、加入者の一団に対して、独自の主体性をもつ関係にあるものである。しかして、これを本件についてみるのに、成立に争いのない乙第十、第十一号証≪中略≫を総合すれば、鈴木梅子は、かねて、講元となり、講員相互間の資金の融通を目的とし、一定の組、口数を定め、講元も講員の一員として各組に一口以上加入し、講員全体が一定の時期毎に開催される講会において、各自、一定の掛金を醵出し、第一回の講会においては、講元が加入口数の一口について、他の講員に優先して総掛金を取得し、第二回以降の講会においては、入札の方法により、講金受領者が決定し、すべての口数に、順次、講金が給付される旨の約定で、本件無尽講を発起し、設立したこと、そして、鈴木梅子は、講元として、掛金、掛戻金の徴収、落札金の交付、これ等に関する計算、講会の招集、講員の加入、脱退等講の業務一切を処理していたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、本件無尽講は、講員相互の協力により、共同の目的を達しようとする組合類似の無名契約であると認められるが、鈴木梅子が独自の主体性をもち、反復継続の意思をもつて、これを主宰し、経営するものであるとは認められないから、右講は、相互銀行業を営むものであるということができない。
のみならず、仮に本件無尽講が相互銀行法第四条に違反するものであるとしても、元来、同法の目的とするところは、無尽という法律行為自体を禁止しようとするものではなく、同法第一条に規定するように、金融の円滑を図り、貯蓄の増強に資するため、金融業務の監督の適正を期するとともに、信用の維持と預金者等の保護に資そうとする行政上の取締にあるから、同法に違反して、無尽その他の法律行為をした場合においても、その違反者が刑事上の制裁を受けるのは格別、その法律行為自体の私法上の効果には、何等、消長を来たすところはないと解される上、前示認定の事実によれば、右講をもつて、公序良俗に反する行為であるとは認められない。したがつて、本件無尽講が同法第四条に違反して、公序良俗に反することを前提とする被告の一の抗弁は、理由がない。
以上の次第であるから、鈴木梅子は、被告に対し、原告主張の一の(一)の貸金五万円のうち、被告の負担額金一万円、(二)の貸金三万円のうち、被告の負担額金五千円、(三)の貸金五万円のうち、被告の負担額金一万円、(五)の貸金二十一万六千百六十円の各債権合計金二十四万千百六十円を取得したものであるということができる。
次に、被告の二の抗弁についてしらべてみると、まず、被告は、前示貸金債務の一部について、鈴木梅子に対し、その一部支払又は超過支払をした旨主張するが、これに符合する被告宮原モモヱ本人尋問の結果は、後記各証拠に対比して、たやすく、信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて前示甲第二号証≪中略≫を総合すれば、鈴木梅子が前示貸金債権金二十四万千百六十円について、被告から、その主張のような支払を受けた事実のないことが認められる。したがつて、被告が右支払をしたことを前提とする被告の二の抗弁もまた、理由がない。
原告主張の二の事実のうち、鈴木梅子が昭和三十一年七月十七日、被告に宛て、前示貸金債権金二十四万千百六十円を含む債権を原告に譲渡する旨の通知を発し、右通知が同日、被告に到達したことは、被告の認めるところである。
また、右事実と前示甲第二号証≪中略≫を総合すれば、鈴木梅子は、昭和三十一年七月十一日、原告に対し、前示貸金債権金二十四万千百六十円を譲渡したことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
してみれば、被告は、原告に対し、前示貸金債務金二十四万千百六十円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和三十一年八月十八日以降完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本訴請求は、右の限度において、正当として、認容すべきであるが、その余は、失当として、棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言について、同法第百九十六条を適用して、主文のとおり、判決する。
(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 土田勇 佐藤栄一)